1 00:00:01,000 --> 00:00:04,307 「みんなが節約するほど、みんな貧乏になる」。 2 00:00:04,307 --> 00:00:09,869 1936年、世界恐慌のまっただ中で書かれた本の主張です。 3 00:00:09,969 --> 00:00:13,949 節約は美徳のはずなのに、なぜ貧乏になるのか。 4 00:00:13,949 --> 00:00:21,281 この話は、日本の「失われた30年」と、あなたの財布につながっています。 5 00:00:21,381 --> 00:00:26,165 最後には「じゃあ自分はどうすればいいのか」まで話します。 6 00:00:26,815 --> 00:00:29,770 ジョン・メイナード・ケインズ。 7 00:00:29,770 --> 00:00:34,372 1883年生まれ、イギリスの経済学者です。 8 00:00:34,472 --> 00:00:37,737 1936年の『一般理論』。 9 00:00:37,737 --> 00:00:42,467 主張は「不況のときは、国が借金してでもお金を使え」。 10 00:00:42,717 --> 00:00:46,807 今の世界中の景気対策は、ほぼこの本の子どもです。 11 00:00:47,057 --> 00:00:49,393 机の上だけの人ではありません。 12 00:00:49,393 --> 00:00:55,335 自分でも株や為替を売買し、ケンブリッジ大学の基金の運用まで任されていた。 13 00:00:55,335 --> 00:00:57,900 お金の現場を知っている学者でした。 14 00:00:58,800 --> 00:01:00,667 話を単純にします。 15 00:01:00,667 --> 00:01:05,201 あなたが今月、外食を1回やめて1万円を貯金した。 16 00:01:05,201 --> 00:01:07,873 あなたにとっては100%正しい。 17 00:01:08,373 --> 00:01:14,059 でも、その1万円は、本当なら飲食店の売上になるお金でした。 18 00:01:14,059 --> 00:01:17,349 店員さんの給料になるはずだったお金です。 19 00:01:17,449 --> 00:01:20,212 あなたの支出は、誰かの収入。 20 00:01:20,212 --> 00:01:22,489 これが経済の大原則です。 21 00:01:22,989 --> 00:01:24,547 一人なら問題ない。 22 00:01:24,547 --> 00:01:30,233 でも全員が同時に節約すると、社会全体の売上が減り、給料が減る。 23 00:01:30,233 --> 00:01:33,341 減った給料からは、もう貯金できない。 24 00:01:33,441 --> 00:01:38,231 結果、みんなで節約したのに、社会全体の貯金は増えない。 25 00:01:38,231 --> 00:01:39,779 むしろ減ることさえある。 26 00:01:39,779 --> 00:01:43,474 これが「倹約のパラドックス」です。 27 00:01:44,124 --> 00:01:47,047 論理学の言葉で「合成の誤謬」。 28 00:01:47,047 --> 00:01:50,237 コンサートで一人が立ち上がれば、よく見える。 29 00:01:50,237 --> 00:01:53,673 でも全員が立ち上がったら、誰も見えなくなる。 30 00:01:53,673 --> 00:01:55,597 それと同じ構造です。 31 00:01:55,997 --> 00:02:02,686 ケインズはこの発想を、1714年の『蜂の寓話』という本から引いています。 32 00:02:02,686 --> 00:02:09,123 一匹一匹が贅沢をやめた途端、蜂の巣全体が貧しくなった、という寓話です。 33 00:02:10,023 --> 00:02:11,687 ここからが本題です。 34 00:02:11,687 --> 00:02:16,055 1990年代、バブルが崩壊した日本。 35 00:02:16,155 --> 00:02:19,323 会社は借金を返すために投資をやめた。 36 00:02:19,323 --> 00:02:21,863 家計は不安だから財布を閉じた。 37 00:02:21,863 --> 00:02:24,843 値下がりを待つから、さらに買わない。 38 00:02:25,343 --> 00:02:27,595 一人ひとりは正しく行動した。 39 00:02:27,595 --> 00:02:29,569 でも全員が同時にやった。 40 00:02:29,569 --> 00:02:32,325 その結果が、シャッター通りです。 41 00:02:32,825 --> 00:02:40,261 数字で見ます。日本の名目GDPは、1995年におよそ521兆円。 42 00:02:40,261 --> 00:02:43,643 2020年はおよそ539兆円。 43 00:02:43,643 --> 00:02:46,485 25年間、ほぼ横ばいです。 44 00:02:46,585 --> 00:02:50,312 同じ期間に、アメリカは3倍近くになりました。 45 00:02:50,812 --> 00:02:56,391 そして今、日本の家計が持つ金融資産はおよそ2,230兆円。 46 00:02:56,391 --> 00:03:00,545 その半分近くが、現金と預金のまま眠っています。 47 00:03:00,645 --> 00:03:05,382 国が「貯蓄から投資へ」と20年以上言い続ける理由。 48 00:03:05,382 --> 00:03:08,465 NISAで税金まで捨てて投資を勧める理由。 49 00:03:08,465 --> 00:03:12,001 それは、使われないお金を動かしたいからです。 50 00:03:12,501 --> 00:03:15,780 ここで、反対側の意見も言っておきます。 51 00:03:16,030 --> 00:03:21,059 貯めたお金は消えるわけではなく、銀行を通じて企業の投資に回る。 52 00:03:21,309 --> 00:03:25,832 人も工場もフル稼働しているときは、節約はむしろ健全だ。 53 00:03:25,832 --> 00:03:28,717 これが古典派と呼ばれる人たちの主張です。 54 00:03:28,967 --> 00:03:35,783 実際、2022年以降の日本は物価が2%から3%上がるインフレです。 55 00:03:35,783 --> 00:03:40,221 「お金が足りない」より「物が高い」局面。 56 00:03:40,221 --> 00:03:44,717 倹約のパラドックスが、そのまま当てはまるとは限りません。 57 00:03:44,817 --> 00:03:49,905 ケインズの主張が効くのは、モノが余って人が余っている、不況のとき。 58 00:03:49,905 --> 00:03:51,730 万能の法則ではない。 59 00:03:51,730 --> 00:03:53,719 ここは押さえておいてください。 60 00:03:54,619 --> 00:03:56,863 ここからは個人の見解です。 61 00:03:56,963 --> 00:04:00,857 まず、生活費の3か月から6か月分は貯める。 62 00:04:00,857 --> 00:04:03,823 これは倹約のパラドックスより優先です。 63 00:04:03,823 --> 00:04:09,396 あなた一人の節約で日本は沈みませんし、あなたの生活は守れますから。 64 00:04:09,896 --> 00:04:16,201 そのうえで、お金を「減らさないもの」ではなく「回すもの」として見る。 65 00:04:16,201 --> 00:04:20,429 学び、健康、人との時間、そして投資。 66 00:04:20,529 --> 00:04:26,401 使い方を設計した人だけが、経済が回るとき、その果実を受け取れます。 67 00:04:26,901 --> 00:04:33,380 投資も同じです。株を買うとは、企業にお金を回し、経済の輪に入ること。 68 00:04:33,480 --> 00:04:35,539 ケインズ自身が書いています。 69 00:04:35,539 --> 00:04:41,375 投資を動かすのは計算ではなく「アニマル・スピリット」だと。 70 00:04:41,375 --> 00:04:44,323 行動したい、という衝動のことです。 71 00:04:44,823 --> 00:04:46,733 ケインズはこうも言いました。 72 00:04:46,733 --> 00:04:49,710 「長期的には、我々はみな死んでいる」。 73 00:04:49,710 --> 00:04:53,103 元の文脈は、経済学者への皮肉です。 74 00:04:53,103 --> 00:04:58,238 嵐の中で「いつか海は静まる」と言っても意味がない、と。 75 00:04:58,338 --> 00:05:01,197 でも私は、こう受け取っています。 76 00:05:01,197 --> 00:05:05,443 いつか使うお金の「いつか」は、来ない。 77 00:05:05,443 --> 00:05:08,659 貯めるだけの人生は、使う前に終わる。 78 00:05:09,909 --> 00:05:13,845 まとめです。あなたの支出は、誰かの収入。 79 00:05:13,845 --> 00:05:17,835 一人の正解を全員がやると、社会の不正解になる。 80 00:05:17,835 --> 00:05:22,139 効くのは不況のときだけで、今は反対側の主張も強い。 81 00:05:22,239 --> 00:05:24,106 まず生活防衛資金。 82 00:05:24,106 --> 00:05:27,627 そのうえで、使い方と回し方を設計する。 83 00:05:27,627 --> 00:05:33,135 これは一般的な情報で、特定の金融商品をすすめるものではありません。 84 00:05:33,235 --> 00:05:38,111 あなたは、貯める人生と回す人生、どちらを選びますか。 85 00:05:38,111 --> 00:05:40,057 コメントで教えてください。